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「かぜ」と漢方


2016年09月01日

「かぜ」はありふれた病気で、咳、鼻水、咽頭痛に加え、発熱、頭痛、だるさなどの様々な症状を伴い、普通は短期間で自然に治るものであることは皆さん良く御存知でしょう。私たちの日常診療では「急性上気道炎」と言われ、ウイルス感染によるものがほとんどで、多種多様な「かぜウイルス」により引き起こされますが、症状や所見がほぼ一緒であるため一括して「かぜ」とされるのが現状です。インフルエンザの原因もウイルスですが、その特殊性により別格に扱われるのが一般的です。また、肺炎や髄膜炎、溶連菌性咽頭炎などは、いわゆる「かぜ」の範疇を超えており、多くは、より重度の病気とみなされます。

「かぜ」を治すには安静、睡眠、水分・栄養補給などが基本となりますが、つらい症状を軽減して体力の回復を促す目的で対症療法が行われます。この場合、西洋薬とは一味違った良さが漢方薬にあります。「かぜ」に漢方というと葛根湯(かっこんとう)がポピュラーとなっていますが、本来、漢方治療は「証」に従って行われます。「証」とは体質の異なる個々の人に現れた症状・兆候で、病気の経過と伴に変わって行きます。これに合わせた治療が漢方薬には期待できます。「かぜ」のひき始めには発汗を促す目的で麻黄(マオウ)という生薬が配合された葛根湯の処方が代表的ですが、胃腸が弱く虚弱体質の人、高齢者には桂枝湯(けいしとう)、香蘇散(こうそさん)などを選択します。「かぜ」の進行により消化器症状が出現し、お腹が張る、口が苦い、舌に白苔が付く、食欲がない等では柴胡(サイコ)という生薬を含む漢方薬を用います。小柴胡湯(しょうさいことう)、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)などです。回復期には体力回復に補中益気湯(ほちゅうえっきとう)が、咳・痰が残る場合は清肺湯(せいはいとう)などが、長引く「かぜ」には参蘇飲(じんそいん)などの処方もあります。

2000年の歴史のなかで経験の蓄積により体系化された漢方医学はむずかしさもありますが、漢方薬のエキス剤化により身近な治療薬となっています。漢方薬はマイルドな作用と思われがちですが、誤用による有害性や副作用もあるため処方には専門的な知識が必要です。
広報委員会  水野啓之