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―医療の分野でも―

世界を変える軍事技術研究―医療の分野でも―


 日露戦争当時、兵士の脚気による病死が大きな問題となっていた。海軍軍医の高木兼寛は白米食を見直し、洋食・麦食・高タンパク食を推奨した。東京帝国大学の研究者ら及び陸軍軍医総監の森鴎外は、これを批判し脚気の感染症説を提唱した。軍配は海軍側に挙がり、後に鈴木梅太郎によるオリザニンやビタミンの発見により証明された(吉村 昭著・白い航跡)。また、現在も市販されている「正露丸」は当時、大陸側に渡った多数の兵士が下痢に悩まされた経験から開発され、「征露丸」と名付けられたが、現在は「征」の文字を「正」に改められている。
 また朝鮮戦争やベトナム戦争の米軍の戦死者において、著しい大動脈の粥状硬化や冠動脈硬化が報告され、結果的に現在の動脈硬化治療の発展につながっている。そして従来(ベトナム戦争から1990年代まで)の重症外傷患者の大量出血に対しては乳酸リンゲル液などの大量投与が行われたが、イラク戦争やアフガニスタン戦争を経た現在は、治療法は一転し、早期の止血が最重要で、様々な止血器具、止血方法や局所止血剤が開発され、血液製剤の早期投与の重要性が指摘され、外傷性凝固障害への対応も開発されている。従来の大量輸液では凝固因子の希釈、間質浮腫、虚血再灌流障害、炎症性サイトカインなどの全身への拡散などによる多臓器障害を誘発すると説明されている。
 決して戦争という事態を肯定するつもりはないが、国家および研究機関は、いたずらに軍事技術研究を忌避するのみでなく、今回のコロナ禍での我が国のワクチン開発の遅れを反省し、非常事態や緊急事態に対する国家体制も含めて備えを怠ることなく、絶えず整備し続けなければならないことを肝に銘ずるべきである。