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直美(ちょくび)が招く医療崩壊 ―医は算術なのか―


初期研修直後に美容外科に進む直美(ちょくび)の医師が年間200人まで増えている。初期臨床研修を受ける医師は約8,000人であり、40人に1人が直美となっていることになる。この選択は、医療の現場に深刻な問題をもたらしている。美容外科における医療事故件数は年々増加傾向にあり、脂肪吸引手術における脂肪塞栓症による死亡事故も報告されている。未熟な医師による手術は、患者に深刻なダメージを与える可能性があるだけではなく、医療全体の信頼を損なう恐れがある。また、美容外科は自由診療が中心であり、経験の浅い医師が安全よりも利益を優先する医療を行うことは、医師としての使命感や責任感、倫理観を揺るがすものである。さらに、直美の場合、初期研修は2年だけであり一般医療の経験が不足する。他の医療分野への転向が難しくなり、「潰しが効かない」状況に陥る可能性がある。そのため、直美が増えることで保険医が減り、地域医療格差が拡大する懸念がある。医師一人を養成するためには、一人当たり約1億円のコストがかかると言われている。多大な社会的投資にもかかわらず、美容外科へ進む医師が多くなり、保険診療における医師不足が深刻化することになれば皮肉である。貝原益軒は「養生訓」で、「医は仁術なり。仁愛の心を本とし、人を救うを以て志とすべし」と説いている。医療が「算術」に陥れば、患者第一主義の医療は実現できない。医師としての使命感を持ち、「仁術」の本質に立ち返ることが求められる。