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―指導とパワハラの境界―

部下を破滅に追い込むクラッシャー―指導とパワハラの境界―


 労働施策総合推進法と聞いて何を規制するものかすぐに理解できる人はほとんどいないでしょう。2020年、大企業を対象に先行施行された通称「パワハラ防止法」のことです。今年4月から対象が中小の事業所にも拡大され,職場内のパワハラ防止措置が全面施行されることになりました。パワハラは社会活動する人々において陰湿で根深い問題で、被害者の人生を壊滅させうる行為です。人を成長させるためにはある程度のプレッシャーを伴う指導が必要ですが、行き過ぎるとパワハラになってしまいます。指導は相手の成長を促し業務状況を改善させる目的で、業務上必要性が明確な指示やフィードバックを行う行為です。指導者には相手がどのレベルで躓くかを想定し先回りして心身のサポートすることが求められます。それにより一見すると千本ノックのように見えるものでも単なるシゴキではなく本来の指導になるわけです。近年、パワハラを議論する場合に「クラッシャー上司」という言葉をしばしば耳にするようになりました。その特徴は部下をときには奴隷のように扱い、精神的に追い詰めて潰す。他人への共感性が欠如しているため、そのことに罪悪感を抱かない。しかも基本的には仕事ができるため、組織としても処分がむずかしい。結果として、クラッシャー上司は部下を潰しながらどんどんと出世していくというものです。クラッシャー上司はいわゆる地頭がよく高い問題処理能力を発揮でき、ロジカルシンキングが得意な傾向にあります。だから仕事ができるし、指導内容のコンテンツにも問題はありません。指導する内容はごもっともなことばかりです。そのようなクラッシャーは仕事ができるため、業績ダウンを恐れて管理職はなかなか処分に踏み切れませんが、それを許容しているとどんどんスタッフが疲弊し退職に追い込まれ、組織が弱体化します。それゆえクラッシャー上司は建設的に処分されなくてはなりません。クラッシャー上司とされる人物像にまったく心当たりがないという人はおそらくほとんどいないでしょう。組織マネジメントの上で切り込んでいかなければならない課題です。