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医療裁判におけるペンと弁―医学部に医療弁論講座?―


 民事裁判の全体像のなかで、ペンと弁のなす役割について述べる。事実確認のみの現場である民事裁判の全体像から見た時に、提訴からはペンによる確認であり、法廷での尋問・陳述は弁による確認である。原告側から郵送される、「結果と経過から貴職の過失は明らかである。」とする訴状に始まり、約1?2ヶ月毎に約2年間にわたり原告と交わされる準備書面及び最終意見陳述書まではすべてペンによって主張がなされる。原則的には第1審のみで実施される法廷に於ける担当医への直接尋問では、書面を見てはならない約束のなかで、合議制3名の裁判官と原告弁護士を前にした、身振り手振りも微妙に制限された着座での弁による主張となる。結局何年もかけてペンと弁を駆使しての無過失の証明をする。法廷で弁にこだわる理由を弁護士さんにお聞きした。「我々は学会報告などでパワーポイントと手元の原稿により発信するのにどうしてなのか?」「弁は原稿に左右されないその時点での脳内の表現である。今一番お伝えすべきことをどのように伝えるか?に特化している。」理由をお聞きして妙に納得させられた。
 加えて個人的な印象ではあるが、全国的に刑事事件として処罰を希望する原告が増加しているようにも見受けられるので対応には更なる留意が必要となる。刑事責任となると、一般的な医師賠償責任保険は刑事特約がない限り無効となる(長野県医師会員の保険では個人契約の場合には刑事特約が自動で付帯されますが、法人契約の場合はオプションで追加することができるそうです)。そのような事例への対策の意味からも、医学部にも医療に特化した弁論講座なり弁論部を作って医学生の弁論能力に磨きをかける教育が必要な時代なのかもしれない。