健康読本53
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 最後に、ご家族や周囲のかたへのアドバイスについて触れておきます。職場の労務管理者のかたにも参考にして欲しいと思います。 いつもと違う様子(表6)に気づいたら、無理に聞き出すのではなく、時間をかけて本人の話に耳を傾けてください。その際に「気のせいだ」「しっかりしなさい」「もっと頑張りなさい」などと訴えを無下に否定しないで、ご本人の苦しんでいることを聞いてあげてください。 そして、こころの病気が疑われる場合には、病院に行くことを勧めてみましょう。不安だとか恥ずかしいという気持ちで受診できないときには、ご家族が受診の付き添いをするとよいでしょう。本人がどうしても受診を望まないときには、ご家族がまず相談してみるのも一つの方法です。 ご家族は、初診時は特に、その後もときどき主治医に会っておくことが大切です。主治医にとっても家庭での様子を聞くことが治療の役に立つのです。診察室では元気を装っていても、家では「死にたい」とこぼしている、などという情報は正しい診断と治療に不可欠なのです。またご家族にも病気や治療について知っておいて頂くことは、何よりも大切だと思っています。 自宅では、安心できる環境をつくることが大切です。言葉だけでなくさりげない気遣いなどが、ご本人に安心感を与えます。風邪で高熱が出て具合が悪いときに、「頑張って仕事に行け」とは言わないですよね。こころの病気は外からではわからないために、つい叱咤激励しがちです。すると、ご本人は「つらさをわかってくれない」とか「言われてもできない自分には価値がない」などと考えてしまいます。 逆に気を遣い過ぎても、ご本人の負担になることがあります。たとえば「旅行に連れ出せば元気になるだろう」と考えて無理に連れて行くと、かえって疲労感が増し、体調が悪化してしまうことがあります。ご本人が趣味や娯楽を楽しみたくなる気持ちになるのを待ちましょう。 また、こころの病気では、悲観的にしか物事を考えることができなくなり、退職や離婚などを早まってしまう場合があります。人生の大切な決定は症状が良くなってから一緒に考えることが肝要です。6家族や周囲のかたへのアドバイス17こころの病気

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